接触問題の解法であるHartnettの手法は、接触領域をx, y方向に分割しますが、EPC法(Elliptical Pressure Cell Method)では、x方向だけを分割し、各セル内部のy方向にHertz線接触時の楕円状面圧分布を仮定します。セル内部でx方向の面圧変化はありません(下図(a)参照)。下図(b)は複数個のセルによる接触面圧分布例を示したものです。スライス片毎の最大面圧の変化とともに接触幅も変化していくイメージが把握しやすいと思います。
ころ軸受接触面圧計算にHartnettの手法を適用する場合、x方向の接触領域の把握は比較的簡単にできますが、 y方向の接触領域の把握が難しく、無駄のないメッシュ分割を行うための最適なサイズを設定するには、ほとんど場合で、トライアンドエラーが必要になります。EPC法ではこのわずらわしさが解消されています。また、軸方向にだけ分割するため、計算時間が大幅に短縮できます。

(a)EPC法での1つのセル内部の面圧分布 (b)EPC法での面圧分布の例
現在、転がり軸受の動定格荷重/定格寿命計算は、ほとんどの場合、ISO 281:1990、JIS B 1518:1992に準拠して行われていますが、新しい規格として、ISO
281:2007、JIS B 1518:2013が既に制定されており、今後、これらの規格に移行していくことが考えられます。
改訂された新規格では、「コンピュータによる技術理論解析を実験及び実際の経験と結びつけて,統合方式による寿命修正係数aISO の計算式」(下記)が提示され、これを用いた動定格荷重/定格寿命計算が必要になります。
![]()
ec : 汚染係数
Cu : 軸受疲労限荷重(材料が疲労限に達する応力値で通常1500MPaが採用されます)
κ : 粘度比
P : 等価荷重
上式を使用するに際して難しい点は、ころ軸受の疲労限荷重の算出です。この理由は、ころ軸受の疲労限荷重算出のためにはころと転走面の接触面圧分布計算が必要ですが、この接触面圧分布計算が簡単ではないためです。ちなみに、上記規格には、疲労限荷重の算出方法として、基本静定格荷重C0に比例するという簡易計算式も提示されていますが、あまりにも簡略化しすぎているため、この簡易式が採用されるとは考えられません。また、JIS B
1518:2013には、「応力分布が一様とならない線接触の場合には複雑な数値解析が必要となる」と明記されており、適用可能な数値計算方法として、Hartnett
の方法(*1)等が引用されています。このため、今後、複雑な数値解析により、疲労限荷重を算出しなければならない方向にあると考えられます。
しかし、接触面圧を求めるに際して、従来のスライス法(*2)ではスライス片間の相互作用を考慮しておらず、エッジロードも考慮できないため不十分であり、また この方法はJIS B 1518:2013記載の適用可能な数値計算方法にも引用されていません。一方、適用可能な数値計算方法として引用されている、Boussinesq解(半無限体に集中荷重が作用したときの変位理論解)をベースとした解析
【Hartnett の方法(*1)が一般的;幣房製品のNOCPACもこの範疇に入ります】 では、計算規模がやや大きすぎるため、あまり使用したくないのが実情であり、設計者向けの適当な計算方法がない状況にあると言えます。計算方法としては、軸方向だけを分割することで接触面圧計算ができる新しいスライス法が望まれていると考えられます。
(*1)Hartnett, M. J., "The Analysis of Contact Stresses in Rolling Element
Bearings", Transaction of the ASME, Journal of Lubrication Technology,
Vol. 101 (1979), pp. 105-109.
(*2)Harris, T. A., “The Effect of Misalignment on the Fatigue Life of Cylindrical
Roller Bearings Having Crowned Rolling Members”, Transaction of the ASME,
Journal of Lubrication Technology, Vol. 91, Series F, No.2, (1969), p294-300.
幣房では、新規格に対応できる計算技術確立という観点から、以前より、この問題への取り組みを予定してきており、アナウンスしてきましたが、新規格へ対応できる計算技術の確立という観点から、EPC法を開発しました。EPC法は、後述の検証結果から見ても、かなり良い近似解法であると考えております。
接触問題を解くためには、物体上の面圧分布P(x’, y’) による物体1上の点(x,y)の変位(w1)を算出することが必要です。これは次式で表されます。
(1)
この式は、接触領域を分割し、各セル(サイズ:x方向2a,y方向2b)内部で面圧P(x', y')が一定である、と仮定することで、次式が得られます。
(2)
この式は解けるので、接触問題が解けるというのが、Hartnettの手法です。
EPC法では各セル内部の面圧分布をHertz線接触理論の次式で近似します。
(3)
式(3)を式(1)へ代入して、かつ、セル中心はすべて同じ位置にあるため、次式が得られます。
(4)
EPC法ではこの式を解いて、ころと転走面の接触問題を解いています。
EPC法の妥当性を確認するために、下図のような円筒ころ内輪の接触問題を取り上げ、幣房製品であるNOCPAC計算結果と比較します。



EPC法は、ほぼ全域でNOCPAC計算結果と一致していますが、エッジ部だけ、NOCPACより若干低い面圧となっています。この原因はエッジ部でHertzの線接触理論が成立しなくなるためと考えられます。
下図はNOCPAC計算結果のy方向面圧分布を示したものですが、エッジ部(x=0.5mm)だけ、尖った面圧分布になっており、Hertz線接触理論が成り立たなくなっていることがわかります。

NOCPAC計算結果
エッジ部で、このような尖った面圧分布になるメカニズムはわかりませんが、エッジ部では、Hertz線接触理論の前提である無限に続く面圧分布の仮定が崩れていることは間違いなく、これが原因でEPC法とNOCPACが一致しなくなると考えられます。
(事例2) カットクラウニングの場合
NOCPACとの比較結果を下図に示します。


EPC法とNOCPACの比較(カットクラウニング,200分割) エッジ部拡大図
上図の場合、エッジ部で面圧がゼロであり、Hertz線接触理論が全域で適用できるため、全域で非常に良い近似を与えることができました。
以上のように、EPC法はエッジ部の面圧だけ、やや低く計算されますが、それ以外の箇所では、良い近似を与えていると言えます。
クロスローラー軸受のEPC法によるころ接触面圧分布計算事例を事例s14に, 事例s10の円筒ころを用いた従来スライス法とEPC法の比較計算事例を事例s15に示します。
こちらのリンクから入れます --> ROBPACS解析事例s14, ROBPACS解析事例s15
(注)解析事例s14,s15はVer.2.2で計算したものです。Ver.2.2では、従来スライス法でころの荷重・モーメントの釣合を解き、EPC法で接触面圧計算をするという方法であり、十分ではありません。Ver.2.3からはころの荷重・モーメントの釣合もEPC法で解くようになっています。こちらの解析事例は事例s16,事例s17をご参照ください。
〒438-0088
静岡県磐田市富士見台4−8
TEL 0538-33-3239
FAX 0538-34-9094
e-mail info@korogari-kaiseki.com